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  • ○肛門嚢について
  • 2025/05/19
  • 【肛門嚢って何?】
     イヌやネコには、肛門のすぐ近くに独特の臭いの液体を作る肛門嚢(こうもんのう)という構造があります。
     肛門傍洞(こうもんぼうどう)という解剖学的な名称よりも、肛門嚢の方がなじみがある飼い主さんは多いかもしれません。
     肛門嚢の「嚢」という言葉は袋状の構造を意味します。
     肛門嚢は左右にあり、肛門を時計の文字盤に例えると4時と8時の位置にあります。
     イヌやネコが排便する際に肛門が開口すると、すぐ近くにある肛門嚢内で分泌された液状の内容物が排出されます。
     この独特の臭いの液体が縄張りの印などとして動物同士の情報手段になっていると考えられています。
     通常は排便時以外で肛門嚢から内容物が排出されることはあまりありませんが、動物が極度の興奮・緊張状態になった場合に漏出して、飼い主さんにも臭いがわかることがあります。
     また、肛門嚢の内容物が過度に溜まっていたり、肛門嚢が炎症を起こしているような場合でも漏出することがあります。
     スカンクが「臭いオナラをする」と言われるのは、この肛門嚢の内容物を噴き出すように排出することを指します。
     肛門嚢は俗称も含めて「肛門腺(こうもんせん)」「臭嚢(しゅうのう)」「臭腺(しゅうせん)」などの呼び方もありますが、イヌの「肛門周囲腺(こうもんしゅういせん)」は別の組織で、肛門嚢のことではありません。
     肛門嚢はヒトにはありません。

    【肛門嚢のトラブル】
     肛門嚢の問題としては「肛門嚢内容物の過度の貯留」「肛門嚢の炎症」まれに「肛門嚢の腫瘍」などがあります。
     いずれも初期症状として動物自身が肛門付近を気にして「肛門付近を舐めようとする」「床に肛門を擦り付ける」などが見られることがあります。

     ●肛門嚢内容物の過度の貯留
     肛門嚢の分泌物が多量に貯留する状態を若齢時期から繰り返す動物は、生まれつきの肛門嚢の構造の問題が考えられます。
     通常の排便時に十分な量の内容物を排出できない構造である、もしくは平均的な例よりも分泌量が多い可能性です。
     このような動物は、ヒトの手で定期的に肛門嚢を圧迫して貯留した内容分泌物を排出させる必要があります。
     この作業を「肛門嚢搾り」などと呼ぶ場合がありますが、その対象になるのは小型犬が多く、ほとんどの中型犬・大型犬では必要としません。
     小型犬でもすべての個体に必要とは限りません。
     ネコで肛門嚢搾りが必要な症例は、わずかに散見されます。
     構造の問題があまりにも極端な症例では、手術適応の場合があります。
     一方、一時的な貯留過多であれば、排便との兼ね合いが考えられます。
     前述のとおり、通常は排便時に肛門嚢の内容物も排出されるので、排便が無い日が続くと、結果的に肛門嚢の内容物も貯留する可能性が高くなると考えられます。
     この場合は排便が減少した原因を調べる必要があります。

     ●肛門嚢の炎症
     炎症は肛門嚢に細菌が感染した場合が多く、肛門嚢に膿が充満し、結果的に肛門嚢が破裂することもしばしば見られます。
     破裂した肛門嚢から血液もしくは血液と膿の混合物が漏出し、飼い主さんが「肛門から出血している」と誤解される場合も珍しくありません。
     肛門嚢が破裂すると、肛門のすぐ横の皮膚が破れたように出血していることが片側もしくは両側に確認できます。
     前出の「内容物の過度の貯留」から化膿が引き起こされる場合もあり得ます。
     治療には抗菌剤の投与が必要になるでしょう。

     ●肛門嚢の腫瘍
     「肛門嚢の腫瘍」は「肛門嚢腺癌(こうもんのうせんがん)」が代表的です。
     肛門嚢腺癌はその名称のとおり、癌ですから悪性です。
     医学用語で言う癌は上皮系組織の悪性腫瘍を意味します。
     肛門嚢内部のシコリのような塊を外から触って確認できるかもしれませんが、その際に押し潰さないように気をつける必要があります。
     転移する恐れがあり、リンパ節や肺、脾臓、肝臓などへの転移症例が報告されています。
     肛門嚢腺癌は外科的な切除手術が原則ですが、発見時にはすでに転移している症例も多く、化学療法(いわゆる抗がん剤治療)が必要になると考えられます。
     なお、名前が似ている前述の「肛門周囲腺」が腫瘍化した「肛門周囲腺腫」は別の腫瘍で、原則良性と言われています。
     肛門周囲腺腫は一般的に外科手術で良好な結果が期待できます。

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