loader image
  • ○イヌのフィラリア症
  • 2025/03/31
  • 【イヌのフィラリア症とは】

     フィラリアは、正確には「犬糸状虫(Dirofilaria immitis)」という名称の寄生虫です。

     蚊に刺されることによってフィラリア幼虫が感染し、成長した後に成虫は心臓内部に寄生します。

     フィラリア症は、フィラリア成虫の寄生によって「心臓病」の症状が起こり、死亡する可能性が高く危険な病気です。

     古くからフィラリアはイヌの心臓病の原因になる寄生虫として知られており、イヌのフィラリア予防は一般的に定着しています。

    ( → 「ネコのフィラリア症」は別記事をご覧ください)


    【フィラリア寄生で何が起こるか】

     蚊によってもたらされたフィラリア幼虫は、動物の体内に入り込んで成長し、成虫になり心臓の内部、主に右心室、肺動脈に定着します。

     フィラリア成虫の寿命は、イヌに寄生した場合5〜7年と言われています。

     フィラリア成虫の数が増えると、右心室に収まりきらない虫体は右心房〜後大静脈や肺動脈へ進入し、三尖弁閉鎖不全(右心房・右心室の間にある弁がうまく機能しなくなる状態)による急激な静脈環流阻害が起こって致死的な状態になります。

     これを「後大静脈症候群(Vena Cava Syndrome)」もしくは「大静脈症候群(Caval Syndrome )」と呼び、緊急の虫体摘出手術を実施しなければ、極めて高い確率で死亡します。

     後大静脈症候群が起こらなくても、右心系の循環不全は継続・進行しますので、死亡する確率は高いのです。


    【フィラリア症の症状】

     飼い主さんが初めに気づかれる症状は「咳(せき)」「呼吸困難」「運動不耐性」などで、「喀血(かっけつ)( = 呼吸器からの出血を口から出すこと)」が見られることもあります。

     「運動不耐性」とは、「軽度の歩行でも、すぐに苦しくなって休みたがる」など、運動に耐えられなくなった状態のことです。

     症状が始まると進行は早く、心不全に陥り、食欲や活動性などの一般状態も悪化します。

     最終的には右心不全から始まった血液循環の悪化が全身に及び、様々な他臓器にも悪影響が及んで死亡する可能性が高くなります。

     前述の「後大静脈症候群」は突然起こるため、フィラリアに感染しているイヌは常に急死の可能性があります。

     また、フィラリア成虫の大きさは20〜30センチメートルで(少し細めのお素麺くらいのサイズ)、これはどの犬種に寄生しても一定ですから、心臓が小さい小型犬の方が、フィラリア寄生の影響・症状が早く強く出やすい可能性があります。


    【フィラリア症の診断】

     フィラリア感染の有無は、「フィラリア成虫抗原検査」及び「ミクロフィラリア(フィラリア幼虫)検査」などの血液検査で、高確率で判明します。

     フィラリア症の重篤度はレントゲン検査、超音波検査、心電図検査などで、他臓器の二次的な影響は血液生化学検査などで診断します。


    【フィラリア症の治療】

     右心不全の治療や血栓塞栓症対策などが現実的な対応になります。

     フィラリア成虫の駆除は相応の危険を伴うため、獣医師によって判断が異なるようです。

     フィラリア成虫の寄生数が減少しなければ、心臓の負担は継続・悪化すると考えられます。


    【フィラリア感染の予防】

     フィラリア症になると死亡する可能性が高く、治療しても心臓・肺、その他の臓器にも障害が残りますから、感染しないように予防することが大切です。

     フィラリア感染を予防できるワクチンなどは存在しません。

     現在、最も一般的なフィラリア予防法は1ヶ月に1回の予防薬の投与です。


    【フィラリア予防薬について】

     フィラリア予防は一般的に実施されることが多くなりましたが、フィラリア「予防薬」については、令和の時代になっても未だに誤解されていることが多いようです。

     フィラリア予防薬の特徴を正確に理解しておきましょう。

    ◉ここが重要 : フィラリア予防薬の特徴◉

    ❶ フィラリア予防薬は、「蚊が発生して1ヶ月後から、蚊が消滅して1ヶ月後まで」の期間中に、1ヶ月間隔で内服する必要があります。

    ❷フィラリア予防薬を投与する前には、すでにフィラリアに感染していないか血液検査の必要があります。

    ❸フィラリア予防薬は蚊に刺されるのを予防しているわけではなく、フィラリアに対する抵抗力を増強する効果もありません。フィラリア幼虫が成虫になる前に殺滅する薬剤です。

    ◉フィラリア予防薬は「第4期子虫(幼虫)」を殺滅する薬剤

     蚊から感染するフィラリア幼虫は、正確には「第3期子虫」で、動物の体内に入り込んで2〜3週間以後に「第4期子虫」に成長し、「第4期子虫」の状態がおよそ30〜40日程度続きます。

     フィラリア予防薬は、この「第4期子虫」をほぼ100%殺滅する効果があり、一方で動物には無害と言って良いくらいに安全性が高い薬剤です。

     また、フィラリア予防薬は内服後1〜2日で体内から消失しますから、この特徴も安全性の高さに貢献していると言えるでしょう。

     飼い主さんにとってこれが最も誤解されやすいポイントですが、1ヶ月間効果が持続するわけではありません。

     約1ヶ月前から体内に侵入した「第3期子虫」が「第4期子虫」に成長したタイミング、つまり蚊に刺されてから1ヶ月後に予防薬を投与すると、その時点で「第4期子虫」は全滅します。

     残った「第3期子虫」がいても、さらに1ヶ月後には「第4期子虫」に成長していますから、再びフィラリア予防薬を投与すれば100%殺滅できます。

     これを1ヶ月間隔で繰り返し継続すれば、最終的にすべてのフィラリア幼虫を殺滅できます。

     安全な薬剤を使用し、いかに少ない投薬量・回数でフィラリア予防を確実に実現するか、よく考えられた優れた予防法と言えるでしょう。

     以上の条件から、「蚊が発生して1ヶ月後から、蚊が消滅して1ヶ月後まで」の期間中に1ヶ月間隔でこの予防薬を内服する必要があります。

     当院があります阪急西宮北口駅付近の2024年の記録では、3月27日頃から12月4日頃まで蚊が吸血活動可能な目安となる気温15℃を上回っています。

     西宮市の気候では、4月末頃から12月末頃までが予防薬の投与期間と考えて良いでしょう。

    ◉フィラリア予防薬投与前の血液検査について

     前述のとおりフィラリア予防薬は安全性が高い薬剤ですが、投薬前にフィラリア感染の有無を確認する血液検査が必要です。

     理由は、すでにフィラリアが感染している動物は血管の内部にフィラリア幼虫が存在している可能性が高く、その一部はフィラリア予防薬の効果により殺滅され、幼虫の死骸が血栓塞栓症などを引き起こす恐れがあり危険だからです。

     また、フィラリア成虫もフィラリア予防薬によって衰弱する可能性があり、成虫の死骸は幼虫の場合よりも大きな血管の閉塞を起こす恐れがあるため危険です。


    【フィラリア予防の今後】

     現在フィラリア予防の世界的スタンダードである「米国犬糸状虫学会(American heartworm society ; AHS)ガイドライン」では、フィラリア予防薬の年間(通年)投与が推奨されています。

     日本でも、近年の蚊の発生期間の長期化を考慮すると、近い将来フィラリア予防薬の年間投与がスタンダードになる可能性は高いと考えられます。

一覧へ

お問合せ

CONTACTお問い合わせ

診察予約、採用に関するお問い合わせ・ご応募もこちらからお願いいたします。

TEL:0798−67−8833

お電話は診察時間内にお願いいたします。