- ○ネコのフィラリア症
- 2025/03/31
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【「フィラリア症」は、正確には「犬糸状虫」という名称の寄生虫による疾患です。ネコに感染が起きても寄生虫の種類は同じなので「猫(の)犬糸状虫症」という表現が正しいのですが、この記事中ではわかりやすく「ネコのフィラリア症」と表記します。】
【フィラリア症とは】フィラリアは寄生虫の一種で、蚊に刺されることによって感染します。
蚊によってもたらされたフィラリア幼虫は、動物の体内に入り込んで成長し、成虫になり心臓の内部に定着します。
フィラリア症は、フィラリア成虫の寄生によって「心臓病」の症状が起こり、死亡する可能性が高く、危険な病気です。
古くからフィラリアはイヌの心臓病の原因になる寄生虫として知られており、イヌのフィラリア予防は一般的に定着しています。
【ネコのフィラリア感染】フィラリアの正式名の「犬糸状虫」からもわかるように、ネコはフィラリアが寄生する本来の生物種ではありません。
このために、フィラリアがネコに感染することがあるのは知られてはいましたが、その感染率はそれほど高くないと推測されていました。
近年、ネコのフィラリア症が多数報告されるようになり、ネコのフィラリア感染率はこれまで考えられていたよりも、かなり高いことがわかってきました。
ある地方の調査では、約100頭の「地域ネコ」のうち、10%以上のネコがフィラリアに感染していたとの報告があります。
また、室内飼育のネコの調査でも、フィラリアの感染率は上記「地域ネコ」と同等で10%を超えていたと報告されています。
【ネコのフィラリア症状】ネコのフィラリア感染の症状は、イヌの場合と異なる特徴が明らかになっており、呼吸困難や突然死の原因になると考えられています。
健康であると思われていたネコが、突然呼吸状態の悪化を起こしたり、最悪の場合突然死する例は古くから報告されています。
かつては、心筋症などによる心臓発作が原因として考えられていましたが、現在はフィラリア幼虫感染で発生した「犬糸状虫随伴呼吸器疾患(Heartworm Associated Respiratory Disease ; HARD)」による呼吸困難などが原因のひとつではないかという疑いが指摘されています。
イヌで症状を起こすのは、心臓に寄生したフィラリアの「成虫」であって、フィラリア「幼虫」が原因の症状はほとんど起きませんが、ネコでは異なります。
ネコの体内に侵入したフィラリア幼虫が原因で肺血管などの急性炎症が起こると、咳(せき)や呼吸困難などが突然始まります。
これが前述の、ネコの「犬糸状虫随伴呼吸器疾患」です。
症状は喘息(ぜんそく)やアレルギー性気管支炎などとよく似ており、この症状だけで原因をフィラリア幼虫と特定することは困難です。
さらに、「犬糸状虫随伴呼吸器疾患」を免れたネコでは、フィラリアが成虫になるとイヌと同様に心臓(正確には主に肺動脈内)に寄生しますが、ネコはフィラリアにとって本来の宿主(寄生する対象になる生物)ではないため、成虫にまで成長するのはまれです。
フィラリア成虫の寿命はイヌに寄生した場合よりも短く、2〜3年と言われています。
寿命が尽きたフィラリア成虫の死骸は血管の中の異物でしかなく、結果的に塞栓症などが生じるために肺の損傷や突然死が起こる場合もあるようです。
【ネコのフィラリア症の診断】前述のとおり、ネコはフィラリアが寄生する本来の生物種ではないので、フィラリア成虫が見つかる症例は少ないと考えられます。
イヌでのフィラリア症診断法がそのまま応用できない場合も多いですから、診断が容易でない症例もあり得ます。
血清学的検査や画像診断(レントゲン検査・超音波検査)などを組み合わせて診断することになります。
【ネコのフィラリア予防】ネコのフィラリア予防は、イヌと同様に1ヶ月に1回の投薬で安全に実施できますが、イヌとは異なる薬剤を使うケースがあります。
詳しくは当院までお問い合わせください。