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  • ◯狂犬病
  • 2025/02/21
  •  国の法律である『狂犬病予防法』は昭和25年(1950年)に公布施行されました。
     この一文だけで、察しの良い方はすぐに気づかれるかもしれません。
    「…狂犬病のことはよく知らないけど、昭和25年に単独の法律ができたということは、ヒトが感染して危険な病気なんじゃないの?」

     その通りです。

    【狂犬病はヒトもイヌも発症すると、ほぼ100%死亡する危険な病気です】
     狂犬病はヒトやイヌを含めた哺乳類すべてが罹患し、発症する(症状が始まる)とほぼ100%死亡します。
     ヒトがほぼ確実に死に至る、極度に危険な病気ですから、その対策として国が法律を作るのは当然です。
     昭和20年(1945年)に終戦、その後から戦後日本の再出発が始まった歴史を知っていれば、戦後の混乱期の早い段階で公布された法律の一つに『狂犬病予防法』が含まれている意味は自然と理解できるでしょう。
     まだ人間が生きるのに精一杯だった昭和25年に、「動物(イヌ)のための動物愛護を目的とした」単独の法律を作る余裕など、当時の日本にあるはずもなく、当然この法律は人間のために必要だったことがわかります。

     参考までに、『狂犬病予防法(昭和25年法律第247号)』と同時期に公布された法律は、『公職選挙法(同年法律第100号)』、『国籍法(同年法律第147号)』、『地方公務員法(同年法律第261号)』など、現在でも社会システムに必要で重要なものばかりです。
     狂犬病の対策が、これらの法律と同等に必要だったということです。

    【狂犬病の疫学・症状・治療】
     狂犬病はウイルス性の感染症で、発症した動物の唾液中に大量のウイルスが含まれており、多くの場合は咬み傷からウイルスが体内に侵入することで感染します。
     発症するとほぼ100%死亡します。
     狂犬病ウイルスの感染から発症までの潜伏期間は、咬まれた部位にも左右されますがヒトで1〜2か月、イヌで平均約1か月程度と言われています。
     日本では狂犬病の名のとおり、イヌから感染する機会が多かったようですが、前述のように哺乳類すべてが感染しますので、海外ではネコ、キツネ、スカンク、リス、コウモリなどからの感染も報告されています。
     特殊な例として、狂犬病に感染していたヒトから角膜移植を受けた患者が狂犬病を発症し、死亡した例が欧米で報告されています。

     日本国内での狂犬病の自然発生は、ヒトでは昭和31年(1956年)が最後ですが、動物での発生は昭和32年(1957年)が最後で、これは意外と知られていないようですが、ネコの発症例です。
     主な症状は「狂躁」「麻痺」などの神経症状で、「狂躁」では凶暴化、異常な興奮、神経過敏など、「麻痺」では運動失調、頭部や顔の筋肉麻痺のため飲食ができなくなるなどが生じ、最終的に死亡します。
     狂犬病の可能性が疑われる動物にヒトが咬まれた場合、発症する前に「ヒト用狂犬病ワクチン」や「抗狂犬病免疫グロブリン」を投与するという治療法がありますが、狂犬病ウイルスの侵入からの時間経過や状況によっては間に合わず発症し、死亡する恐れがあります。

     皮肉な話ですが、国内での狂犬病発生を長年阻止し続けている日本では、ヒト用の狂犬病ワクチンを常備している医療機関は限られています。
     このため、仮に日本国内で狂犬病の動物に咬まれる事故が起きても、発症前のワクチン投与(暴露後予防接種)はどこの医療機関でも可能とは言えず、速やかな治療ができない恐れがあります。
     また、抗狂犬病免疫グロブリン製剤は、日本国内での入手はほぼ不可能だそうです。
     狂犬病が発症してしまった後は、有効な治療はありません。

      極めて危険な狂犬病が、再び日本で発生・蔓延することを防ぐためには、まず、『狂犬病予防法』で定められた飼い犬への狂犬病予防接種が重要になります。

    【狂犬病は世界中で発生し、年間3〜5万人が死亡しています】
     日本のように、かつて存在した狂犬病を撲滅した国は極めて珍しく、これは前述の『狂犬病予防法』が寄与した成果と言えるでしょう。
     現在「狂犬病清浄国・地域(狂犬病ウイルスが存在しないとされる国や地域)」は日本、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、ハワイ、グアムなど、11の国・地域のみです。
     それ以外の世界中で狂犬病は発生しており、アメリカやヨーロッパを含め大多数の国で撲滅できていません。
     現在深刻なのはアジア地域で、世界全体の発生数の半分以上が集中しています。
     特に東アジアでの狂犬病発生は多く、日本の近隣国・地域での狂犬病発生は珍しいことではありません。
     お隣の韓国では、1984年(昭和59年)に一度狂犬病を根絶しましたが、狂犬病予防ワクチンの接種率が低いなど、対策が不十分だったために1993年(平成5年)にイヌの狂犬病が発生、1998年(平成10年)以降はヒトの狂犬病死亡例があり、その後現在まで狂犬病の再撲滅は実現できていません。
     国際的な人や物の流通が盛んな現代において、狂犬病が日本に持ち込まれる恐れは常にあると認識しておくべきです。

    【日本国内でも『輸入狂犬病』の発症例は続いています】
     『狂犬病予防法』に基づいて対策を継続した結果、前述のとおり日本国内での狂犬病の自然発生は昭和32年(1957年)のネコでの事例を最後に、その後の発生を許していません。
     ただし、『輸入狂犬病』(海外で狂犬病に感染し、日本国内で発症・死亡すること)は、しばしば発生しています。

    ■輸入狂犬病による国内死亡例
    昭和45年(1970年) ネパールから帰国後発症・日本人死亡1名
    平成18年(2006年)11月 フィリピンから帰国後発症・日本人死亡2名
    令和2年(2020年)5月 来日フィリピン人1名死亡
     特に令和2年の事例は、今からほんの数年前のことですが、みなさんの記憶に残っていますでしょうか?
     狂犬病は決して他人事ではありません。

    【狂犬病についての無知が一番の危険かもしれません】
     飼い主不明のイヌやネコ、地域ネコなどにためらわずに触れる方がいらっしゃるのは、狂犬病を撲滅した日本国内ならではの特別な光景と考えた方がいいでしょう。
     海外では、まさにそのような動物から狂犬病ウイルスの感染が起こるケースがあるため、安易に近づかないように注意されます。
     前述の輸入狂犬病の例も、現地の狂犬病感染動物との接触が原因と考えられています。
     もちろん、狂犬病以外の病原体の感染や、噛まれたり引っ掻かれてケガを負うこともあり得ますから、日本でもおすすめはできません。
     現代の日本人が狂犬病の危険性について意識や知識が薄弱なのは、狂犬病という名称と、狂犬病を撲滅して長い年月が経ち、危機感が薄れたことにあると考えられます。

     日本や中国など、漢字圏で狂犬病と呼ぶこの病気は、例えば英語で「Rabies」です。
     イヌを意味するdogは含まれていません。
     Rabiesの語源はラテン語で、「狂気」「怒り」を意味します。
     フランス語でも、ドイツ語でも、同様の語源・意味だそうです。
     イヌに限らず、ヒトにも同様の症状が起こるので、わざわざイヌを意味する言葉を加えることはなかったようです。
     漢字圏では狂犬病と名づけてしまったため、特に現在の日本では、イヌ特有の病気であると誤解されて、ヒトには関係ないような勘違いが増えてしまったと考えられます。
     実際に、狂犬病予防について講演が行われた際に、ネコの狂犬病の話題が出ると、会場から失笑されたことがあったそうです。
     おそらく「イヌじゃなくて、ネコが『狂犬病』にかかるなんて、冗談でしょ」などという思い込みの現れなのでしょう。

     少し話がそれますが、昭和54年(1979年)頃、少年コミック雑誌の連載マンガの一話として、狂犬病を題材にした話がありました。
     そのマンガの読者は10代が中心で、話の内容から察すると、当時の青少年たちがある程度、狂犬病の危険性を理解していたと推測できます。
     国内で最後の狂犬病発生が昭和32年(1957年)ですから、20年以上狂犬病が発生していない昭和54年当時でも、その危険性はまだ社会的に認知され、青少年たちも自分が生まれる前の出来事ではあるけれど、教訓を得ていたのでしょう。
     現在では、青少年どころか大人でも、狂犬病がヒトに死をもたらす危険な病気であることを知らない方が増えているようで、実は狂犬病の真実を知らないということが一番の危険と言えるでしょう。

    【狂犬病予防接種について】
     『狂犬病予防法』で、飼い犬には「登録」と毎年の「狂犬病予防接種(ワクチン接種)」が義務づけられています。
     動物病院で接種可能ですから、必ず受けてください。

     詳しくは、当院までお問い合わせください。

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