- ○少しくらいならヒトの食べ物をイヌやネコに与えてもいいでしょうか?
- 2025/10/07
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少しくらいならヒトの食べ物をイヌやネコに与えてもいいでしょうか?
必要が無い物は与えないのが原則と考えてください。食品そのものが動物にとって健康上好ましくない場合もあります。また「少しくらい」の程度が個人の主観によってバラバラなので、実は多過ぎる場合もあるでしょう。
ヒトとイヌやネコなどの動物では食べてもよい共通の食材もある一方で、ヒトが通常食べる食材であっても動物には中毒を起こすなど、与えてはいけないものがあります。
また、アレルギーや尿路結石症など、食材の種類が症状の悪化に直結する疾患や体質があるため、この場合も食材の制限が厳密に求められます。
一方、食材自体は動物に害が無くても、過剰な量を食べさせると栄養成分のアンバランスによる疾患や肥満などの問題が起こる可能性があります。【絶対に与えてはいけないもの】
中毒の原因になる「ネギ・タマネギ類」「チョコレート・ココア類」「ブドウ類」「キシリトール」などは与えてはいけません。
また、中毒ではありませんが胃腸障害を起こす可能性がある「牛乳」「スルメ」「鶏の骨」なども避けることをお勧めします。
牛乳を与えられると「乳糖不耐症」のため軟便・下痢を起こす動物が少なからずいます。
これは、牛乳に含まれている「乳糖」を分解する酵素が少ない、もしくはほとんど持っていないためです。
スルメは、動物が食べた後に胃腸などの消化管内で水分を吸収して膨張し、消化管の通過障害などの原因になる恐れがあります。
鶏の骨は鋭く尖って割れる傾向があり、これが消化管に刺さったり傷つけたりする恐れがあります。
同様の理由で、硬い魚の骨も避けましょう。
当ホームページの別記事も参照ください。【「少しくらい」が全く通用しない、厳密な食餌管理が必要なアレルギー・尿路結石症の例】
食物アレルギーがある場合は、アレルギーの原因物質(アレルゲン)をわずかな量しか食べていなくてもアレルギー症状が悪化する恐れがあります。
アレルギーについては、個々のヒトや動物によってアレルゲンが異なりますから、飼い主さんが食べて平気なものでも、動物にはアレルギーが発症する場合もあり得ます。
ヒトのアレルギーと同様に、アレルゲン管理は厳密に行う必要があります。
また、尿路結石の例をあげると、代表的な尿路結石である「ストルバイト結石」の対策フードは、結石の材料になる「マグネシウム」などを技術上可能な限り除去しています。
マグネシウムはほとんどの食材に含まれている成分ですから、結石対策フード以外の食べ物を加えるとマグネシウムを摂取する可能性が非常に高く、ストルバイト結石が発生してしまいます。
結石の材料を与えていることになるのです。
他の食べ物をわずかでも追加することによって、結石対策フードを主食にする意味が無くなる恐れがあります。
その他の疾患でも、食事療法を実施する必要があるなら、上記同様に治療食以外の食べ物を追加して与えるのは避けるべきでしょう。【総合栄養食を主食にしていても、他の食材を加えるとアンバランスな食餌になる可能性があります】
イヌやネコのフードには「総合栄養食」と呼ばれる基準があります。
総合栄養食とは、新鮮な水とそのフードを与えるだけで「理想的なバランスの食生活が実現できる栄養基準」を満たしたフードのことです。
この基準を満たした理想的な栄養バランスのフードに、他の食材を加えることでバランスが崩れることは容易に想像できると思います。
フードに鶏肉などを加える例などはよく見られますが、「肉成分」すなわち動物性タンパク質が過剰になる恐れがあると言えるでしょう。
タンパク質の習慣的な過剰摂取は例えば将来の腎臓病の遠因になる可能性は以前から指摘されており、お勧めできません。
その他の食材でも、追加することで総合栄養食の理想的な栄養バランスを崩す可能性があり推奨はできません。【「少しくらい」はヒトによって差があり、与える当人にしかわからない基準です】
食材そのものは動物が食べてかまわない物だったとしても、過剰に多い量を食べることになる可能性があります。
例えば体重5kgの動物であれば、体重50kgのヒトの10分の1の重さです。
50kgのヒトが普段食べる食材を「少し」という感覚で4分の1程度の量に減らして5kgの動物に与えたとしましょう。
この場合、体重割合で計算すると、その動物は50kgのヒトが普段の2.5倍の量の食材を食べることと同じ割合になります。
量を計らず、感覚的に「少し」の量だと思っていても、実際には相当な過量の食べ物を与えている場合もあります。
これが栄養バランスを崩す原因になり得るのです。【「少しずつ」でも複数の家族が与えると、合計は多量の食べ物を与えていることになります】
動物に食べ物を与える家族や関係者が複数いる場合では、ひとりひとりは少ない量でも複数の家族が与えることで、結果的に大量の食べ物を与えてしまっている事例も珍しくありません。
動物は好きな食べ物をもらえるなら喜んで次々に食べる場合が多く、『今日はすでにAさんからもBさんからも食べ物をもらいました』と自己申告もしませんから、与える家族もそれが当日何回目の食べ物なのかがわかりません。
また、食べ物を与える家族の方自身に「本当はヒトの食べ物を動物に与えない方がいい」という自覚があると、自分が動物に余分な食べ物を与えた事実を他の家族に隠している場合もあり、このため動物が実際にもらっている食べ物の量はますます把握できなくなる恐れがあります。
このような状況が、栄養のアンバランスや過食による体調不良・肥満の原因になる事例もあります。【ヒトの食べ物の味を覚えると、本来食べるべき動物用のフードを食べなくなる原因になる可能性があります】
ヒトの食べ物を動物が気に入ってしまうと、動物用フードを食べなくなることがよく見られます。
動物用に栄養バランスを配慮したフードを食べずヒトの食べ物を主に食べていると、動物にとってアンバランスな食生活になってしまう可能性が高く、それが将来の病気の原因になる恐れがあります。
また、専用の治療食や制限食などを与える必要がある慢性疾患などに罹患すると、その治療食を食べないことが症状の悪化につながる恐れもあります。
「動物用のフードを食べたがらないので仕方なくヒトの食べ物を与える」という話はよく聞きますが、現実には「ヒトの食べ物の味を覚えさせてしまったために、動物用フードを食べなくなった事例」が少なくありません。
特に最近は室内飼育の動物が多いので、飼い主さんが動物とは違う食べ物を食べていることを動物たちはわかっていますから、その味が美味しいと知ってしまえば、ヒトの食べ物を欲しがるようになるのは当然の心理でしょう。
このような難しい状況にならないように、初めからヒトの食べ物の味を教えない、つまり与えない方が無難なのです。