- ○動物のストレス
- 2026/06/03
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【ストレスって何?】
「生体に有害な影響を及ぼす要因」は、すべてストレスです。
世間一般では精神的な要因をストレスと呼ぶことが多いですが、医学的には、生体に負担になることなら精神的・肉体的な要因をすべて含みます。
過労、ケガ、病気もストレスです。
極端な高温・低温や騒音もストレスになります。
転居などによる生活環境の変化もストレスです。
そして、何がストレスになるかは、その個人または個体で差がありますから、同じ状況でも結果として生じるストレスに差があるでしょう。
人間の例をあげるなら、歌が得意な人はカラオケでストレスを感じないどころか、ストレスを解消できるかもしれませんが、人前で歌うのが苦手な人にとっては、カラオケで歌わされると極めて強いストレスを感じても不思議ではありません。
つまり、同じ場所で同じ時間を過ごしても、個人・個体によって受けるストレスが大きく異なる可能性があります。
それを考慮しなければ、他人や動物たちのストレスを理解することはできないのです。
【動物にとってのストレスは?】
まず、人間である飼い主さんと動物では、ストレスの感じ方に共通点があると同時に、相違点があるかもしれないことを前提として理解しておきましょう。
飼い主さんが好きな物が、動物にとっては苦手かもしれません。
もちろん、その逆もあり得ます。
また、同じ動物種でも個体差があります。
動物にとっても、病気やケガがストレスであるのは当然ですが、生活環境も重要です。
個体差はありますが、日常生活の極端な変化はストレスになる場合がしばしば見られます。
新しい変化が良い刺激になる場合もあるかもしれませんが、ストレスになることも充分あり得ます。
特にネコは安定した毎日を好み、イヌよりも生活環境の変化に敏感である傾向が見られます。
下記のとおり、日常生活の変化の例は多数あります。
・食餌の変更
・室内トイレの変更
・寝場所の変更
・生活パターンの変更
・転居
・リフォームや新しい家具
・来客
・新しく迎えた動物
・家族の増減
・騒音
・におい
・極端な温度変化
・雷や強風、強雨など天候の急変
・その他
■生活パターンの変更例
動物は時間の感覚がかなり正確であると言われています。
この感覚を「体内時計(概日リズム)」と呼ぶこともあります。
毎朝ほぼ同じ時間にご家族を起こしにくる動物の話は珍しくありませんし、人間にも体内時計はあると言われています。
そのような動物たちにとって、散歩や食餌などの時間が変更されたり、生活パターンが日によってバラバラだと、ストレスを感じる可能性があります。
■室内トイレの変更例
排泄場所にこだわる動物は少なくありません。
室内トイレを新しくしたところ、新しいトイレは使わず、トイレ以外の場所で排泄するようになってしまうことがあります。
飼い主さんが動物のために良かれと思われた変更も、動物にとってストレスかもしれません。
■家族・動物の増減の例
家族が増える/減ることも、来客も、ストレスになる可能性があります。
新しい動物が増えるのも同様です。
動物が自分のテリトリーと認識している範囲に、馴染みのない人や動物が現れると、ストレスを感じても不思議ではありません。
また、家族の誰か、もしくは仲間の動物がいなくなることもストレスになる場合があります。
■楽しいイベントでも、ストレスになる可能性はあります
一般的にストレスは「悪」のイメージを持たれている方が多いため、「楽しい」イベントとストレスの関連を見落とすケースがしばしば見られます。
例えば人間の子供さんの遠足は楽しい行事ではありますが、帰宅すると疲れていることも多く、体調を崩す例もあります。
冒頭の記述のとおり、楽しかったとしても疲労があれば、それがストレスとして体調に影響する可能性はあります。
動物が喜んでいるように見えるイベントも、疲労という負担がストレスになる可能性は考慮するべきです。
【動物のストレスの原因は、人間の能力では把握できない可能性があることを理解しておきましょう】
■音(聴覚)■
⑴人間が聴こえない音も、動物は聴取しています。
イヌもネコも、人間よりは聴こえる音の周波数域(可聴域)が、特に高音域が広いと言われています。
音の周波数はHz(ヘルツ)という単位で表し、数値が大きい方が高音です。
人間の可聴域は約16〜20,000Hzで、通常の会話ではおよそ200〜4,000Hzの音域を使います。
イヌの可聴域は約65〜50,000Hz、ネコの可聴域は約20〜60,000Hzであると言われており、報告によっては、ネコは60,000Hz以上の高音も聴取可能であるという情報もあります。
「約5,000Hz以下の音」という条件であれば、音の識別能力は人間の方がイヌ・ネコよりも優れているようです。
これは、人間のコミュニケーションが「言語」を使うため、言語に使われる音域の複雑な音の認識・識別能力が発達した結果であると考えられます。
イヌやネコが高音域の聴覚に優れているのは、捕食対象である他の哺乳類、特にげっ歯類(ネズミなどに代表される動物類)が超高音域でコミュニケーションをとることに起因すると推測されています。
捕食動物にとって、獲物が発する超高音を聴き取ることができれば捕食行動に有利だからです。
なお、今のところイヌやネコ自身が超高音域でコミュニケーションをとっているという証拠は無いようです。
どのような理由にしても、人間には聴こえない20,000Hzを超える「超高音」を、イヌもネコも聴取可能なのは間違い無いようです。
ただし、イヌ・ネコの優れた聴覚は、人間には理解できないストレスを感じる可能性があるという意味でもあります。
ストレスの原因がイヌやネコにとって不快な音だった場合、人間の聴力で聴こえない超高音なら、我々が認識できない可能性があるということを理解しておかなければいけません。
つまり、飼い主さんのすぐそばに居る動物たちのストレスの原因が、人間の能力では感じ取れず理解できない場合があり得ることを想定しておきましょう。
人間の例でも、若齢期や若い成人に聴こえていた「モスキート音(蚊の羽音のような高音)」が、加齢と共に聴こえにくくなるのは有名です。
若者が不快でストレスと感じるモスキート音を、年配者は感知できないため、若者の「音のストレス」を年配者は理解できないかもしれないのと同様です。
飼い主さんが認識できる現象が、イヌやネコが認識できる全てではないということです。
⑵人間やイヌ・ネコに共通して聴こえる音域でも、ストレスの程度は異なります。
工事の騒音を例に考えてみましょう。
人間は騒音の原因が工事によるものであることを理解しますから、ある程度騒音を許容することができます。
工事の重機の音や振動、トラックの音、交通整理の笛の音などについて、人間は工事関連の何の音なのか、音源やその必要性などを理解できます。
さらに工期日程がわかっていれば、「△月△日になったら工事の騒音が止む予定」という情報も許容しやすい理由になるでしょう。
一方、動物にとっては普段聴くことが無い工事の騒音について、工事の意味や必要性、騒音の原因・理由など、すべて理解できないため人間よりも強い不安・ストレスを感じる可能性が高くなります。
もちろん工期も理解できませんから、騒音がいつまで続くのかの不安も大きいでしょう。
同じ騒音でも、飼い主さんと動物たちとでは感じるストレスに相当な違いがあり得るのです。
また、飼い主さんが好む音楽も、動物には不快に感じる場合があるかもしれません。
有名な作曲家のクラシック音楽でも、最新の人気曲でも、動物が好むとは限りません。
植物の育成にクラシック音楽が有効であるとの報告もあるようですが、「動物が好む」かどうかに直接結びつく情報とは言えません。
他の音の例では、動物が飛行機の音を気にする、あるいはセミの鳴き声を嫌う・怖がるケースを、筆者は複数例経験しています。
人間にとって夏の風物詩であるセミの声も、動物には不快な騒音なのかもしれません。
■におい(嗅覚)■
⑴人間よりもイヌやネコの方が嗅覚は鋭敏で、様々な情報をにおいから得ると考えられています。
イヌの嗅覚は人間よりも優れていることが知られており、例えば酸臭(いわゆる「酸っぱいにおい」)は人間の約1億倍の感度があると言われています。
1億倍の感度とは、人間の1億倍強いにおいとして感じるというよりは、人間が感じるにおいの限界を、さらに1億倍に薄めてもイヌは嗅ぎ分けることができるという意味です。
さらに、酪酸臭(腐敗臭の一種で、便のようなにおい)なら人間の約80万倍、ニンニク臭は約2,000倍の感度だと言われています。
そもそも警察犬が嗅覚で容疑者を追跡するなど、犯罪捜査のシステムのひとつとして成立しているくらいですから、イヌの嗅覚が優れているのは一般的にもよく知られています。
イヌの嗅覚には及ばないようですが、ネコも人間の数十万倍の嗅覚を持つと言われています。
そして嗅覚が人間よりも優れているということは、人間が感じることができないにおいに対して、イヌやネコがストレスを感じる可能性があるという意味でもあります。
音の場合と同様に、イヌやネコにとって不快なにおいも、人間の嗅覚では感知できない濃度であれば、私たち人間には動物たちのストレスの原因を理解できない可能性があるということを意味します。
また、イヌが散歩中に他のイヌの尿などのにおいを嗅ぐことで、他のイヌの性別など様々な情報を得ると言われていますが、このことから人間よりも嗅覚情報の重要性が高いことが推測できます。
これはネコも同様で、イヌ以上に「においの情報」が重要であるとも言われています。
つまり、動物にとってにおいは重要な情報源なので、その情報収集の邪魔になるような他のにおいは不快であり、ストレスと感じる可能性があります。
例えば、人間が好きな音楽に集中したい時に騒音で邪魔されて感じるようなイライラを、動物たちはにおいに関して感じているかもしれないのです。
嗅覚情報が人間よりも重要ということは、嫌いな・苦手なにおいを嗅ぐと、イヌ・ネコの方がストレスを強く感じるかもしれません。
⑵においの好みが人間と動物では異なる可能性があります。
においの種類による好き嫌いも、人間とイヌ・ネコでは異なることを理解しておく必要があります。
実際の日常生活でしばしば見られるのが、香水や芳香剤を動物が嫌う例です。
人間が好むにおいでも、イヌやネコにとっては不快である例があり、たとえそれが高級な香水だろうが動物にとっては関係が無い話で、十分ストレスの原因になり得るのです。
逆に、人間にとっての悪臭をイヌやネコが一心不乱に嗅ぎ続けることがあり、そのような状況をご覧になったことがある飼い主さんも多いと思います。
その悪臭を好きかどうかは不明ですが、興味がある・気になるにおいであることは間違いないようです。
また、目の前にある食べ物を、食べるか食べないかは動物は嗅覚によって判断します。
外観が同じようなフードを与えても、喜んで食べるものと、なかなか食べないものが分かれることもあり、特にネコは気に入らない食べ物は全く口をつけず、空腹でも食べないで過ごすことが珍しくありません。
外観が同じように見えるフードについて、口に入れる前に違いを認識できるわけですから、においで判断しているのは間違いないでしょう。
空腹を我慢してでも気に入らないにおいのフードを食べないということは、ネコにとって嫌いなにおいが相当強いストレスになる可能性があると言えるでしょう。
余談ですが、鼻炎などで動物の嗅覚が低下すると食欲も低下するケースがあり、この例もにおいで食べ物を認識していることを意味しています。
■視覚■
⑴暗い環境では、人間よりもイヌ・ネコの視覚の方が優れています。
明るい場所・時間帯では、人間の視覚の方がイヌやネコよりも優れていると言われています。
具体的には、色の識別やピントを合わせる能力などについて、人間の視覚は優れています。
立体視野(両眼によって距離の認識ができる範囲)については、人間とネコは同等程度ですが、イヌは犬種によって差があり、平均すると人間よりも立体視野は狭いと考えられます。
一方、暗い場所・時間帯では、イヌやネコの視覚の方が人間よりも優れていると考えられます。
特にネコは、人間が認識できる限界の6分の1程度の光量でも見ることができると言われています。
暗い環境では、人間の視覚では認識できないものをイヌやネコは見えている可能性があり、それがストレスの原因かもしれないことは考慮しておきましょう。
ただし、ここで言う「見える」とは対象物を認識できるという意味で、イヌやネコが見ている視界は、人間と比べるとピントが甘く、ボヤけているのではないかと言われています。
⑵眼の位置(目線)の高さ
人間は二足歩行のため、成人であれば平均的な眼の高さは地上120cm以上ありますが、ほとんどの家庭動物は人間よりも低い目線で生活しています。
大型犬でも地上70〜80cm、小型犬なら30cm程度、超小型犬や幼犬なら20cm以下かもしれません。
地上20〜30cmからの小動物の視界と、120〜150cm以上の高さから見る人間の視界では見えるものや印象が変わります。
例えばテーブルの上に乗っている物品が落下した場合、人間は物品が落ちる前から見ることができますが、テーブルの下にいる動物には予告無く物品が落ちてくることに驚きや恐怖を感じる可能性があります。
人間の視界で認識できるモノが、動物には見えていない場合があり、逆に人間の目線では見えないモノが動物の低い目線で見える場合もあることを理解しておきましょう。
また、目線が低いこと自体が、圧迫感や恐怖感の原因になる可能性も考慮する必要があります。
動物にとって目線の高さは体格の大きさに比例します。
動物の世界では体格の大きさが、自分の身を守れるかどうかの重要なポイントになり、仮に大型動物と小型動物が争うなら、小型動物の方が不利で、危機感・恐怖感を強く感じて不思議ではありません。
特に小型犬などは、自分より何倍も体が大きい人間とともに毎日生活しているのですから、この圧迫感や恐怖感を感じやすいと理解しておくべきです。
ネコの場合も同様に体格差による圧迫感を感じると考えられますが、幼猫以外は高い場所へ簡単に登ることができるため、目線を高くすることが容易である点を考慮すると、イヌよりも視界のストレスが少ないかもしれません。
【動物が感じるストレスを理解するには?】
⑴「家庭動物は『家族』である」という認識が大切です
家族として動物たちを見ているかどうかで、気づきが変わる可能性があります。
家庭動物は、「他人」ではなく、単なる「同居者」でもなく、ペットショップで購入した「商品」でもありません。
家族として認識することで、動物たちの行動や態度のわずかな変化に気づくことができる場合も多いのです。
⑵動物やその生活環境を観察する視野を広く持つことが大切です
少し話が脱線しますが、自動車運転教習所などで「『曲がり角から歩行者が飛び出して来るかもしれない』と考えながら運転しましょう」と教えられた方も多いと思います。
ただし、そもそも曲がり角があることに気づいていなければ、歩行者の飛び出しを予想することもできません。
同様に、動物のストレスの原因になるものが目の前にあるのに、それに飼い主さんが気づいていなければ、ストレスによる問題が起こるとは想像できません。
見慣れた風景の中にストレスの原因が紛れていることはあり得ます。
動物や生活環境を広い視野で客観的に観察する姿勢が重要です。
【ストレスによって何が起こるのか】
■問題行動■
ストレスが原因で問題になる可能性が高いのは、分離不安など精神状態の不安定による「問題行動」です。
問題行動とは、動物と飼い主さん・ご家族が生活する上で、不都合な動物の行動のことを言います。
飼い主さんの資産や動物自身を傷つける行動も含まれます。
具体的には、「破壊行動」「鳴き続ける」「トイレ以外の場所で不適切な排泄」「過剰な毛づくろい」などがあります。
ただし、問題行動の原因をストレスと決定する前に、ストレス以外の原因が無いことを調べなければいけません。
例えば「トイレ以外の場所で不適切な排泄」は、膀胱炎や腸炎の場合にもしばしば見られる症状ですから、これらを鑑別しなければ、精神的問題、すなわちストレスが原因とは断定できません。




