「肥満細胞腫」と診断されましたが、動物は太っていません。何かの間違いでしょうか?
肥満細胞腫は「肥満細胞」という名称の細胞が腫瘍化したもので、人間でも動物でも患者さんが肥満しているかどうかとは無関係です。
【肥満細胞腫とは】
「肥満細胞腫」は発生症例が比較的多い腫瘍で、イヌ、ネコなどに発生し、人間でも見られます。
「肥満細胞」は元来体内に存在する免疫細胞のひとつで、内部にヒスタミンという物質を持ち、生体防御の役割があります。
肥満細胞の語源はドイツ語の「mastzelle」で、「mast」はドイツ語で「太らせる、肥育する」、「zelle」は細胞を意味します。
発見者であるドイツの科学者エールリッヒが、周囲の他の細胞よりも大型で内部に多数の顆粒を持つ特徴を見て「太った細胞(mastzelle)」と命名しました。
「肥満細胞」はmastzelleの日本語訳で、正に直訳です。
英語でも「mast cell」(マスト セル)と呼ばれます。
この肥満細胞が腫瘍化したのが肥満細胞腫です。
【肥満細胞腫の発生と、患者さんが肥満かどうかは全く関係ありません】
肥満細胞腫という名称から、肥満、すなわち太っていることを連想する方が少なからずいらっしゃるようです。
筆者の経験上、飼い主さんが自分から肥満細胞腫と肥満の関連性を尋ねられる場合もありますし、獣医師から話を向けると、内心「太ってきたから肥満細胞腫ができてしまった」と思い込んでいたのを吐露される例も、実際にあるのです。
タイトルのように「太っていないのに肥満細胞腫と言われた」と疑問に感じられる方もいらっしゃるようです。
そんな誤解があるだろうかと疑う専門家もいるかもしれませんが、現実の臨床現場を経験すると、そもそも肥満細胞という名称の細胞が体内に存在するという知識が無ければ、肥満という文言について誤解される方がいらっしゃるのも不思議ではないと思います。
インターネット検索されても肥満細胞腫の解説は見つかりますが、「肥満細胞腫の発生と、患者さんの肥満とは無関係である」と明言している情報はほぼ見当たりません。
専門家やAIは、肥満という文言について、一般的にどう受け止められるか、誤解の可能性を配慮できていないのかもしれません。
肥満細胞腫は元々体内に存在する肥満細胞という名称の細胞が腫瘍化したもので、患者さんが肥満であるかどうかとは全く関係ありません。
当然、痩せていても肥満細胞腫が発生する可能性はあります。
【肥満細胞腫の治療】
動物の肥満細胞腫はその悪性度によってグレードがあり、最も悪性度が低い場合は、外科手術で取り残し無く完全切除できていれば、その後の治療は必要無い例もあります。
悪性度が高いグレードや、手術で取りきれない状況では、手術後に化学療法(いわゆる抗がん剤治療)などが適応されることになるでしょう。
近年、肥満細胞腫の治療によく使用される「分子標的薬」は、抗がん剤治療よりも副作用が少なく優れた治療薬ですが、全ての肥満細胞腫の症例に対して効果的とは限りません。
なお、皮膚に発生した肥満細胞腫は白っぽくブヨブヨした印象の例もあるため、「脂肪のかたまり」などと誤解されることがあります。
このような例では、脂肪と思い込んで押し潰したりすると、内部のヒスタミンが多量に放出され、ショックを起こす可能性がありますから、絶対に強い圧迫を加えてはいけません。